東京メトロ銀座線上野駅1番線 車側灯検知によるホームドア・可動ステップ制御システム(連携化前)

鉄道駅のホームで近年ホームドアと共に整備されることが増えている「可動ステップ」。これは急カーブに位置するホームでの列車とホームの隙間を小さくし、乗降中の旅客が隙間に転落する事故を防ぐ装置です。しかし、可動ステップが張り出した状態で列車が走行すると車両と接触してしまう可能性があり、その一方で乗客が乗降中に可動ステップが動作することも危険を伴います。つまり、列車が完全に停止した状態なおかつ車両ドアとホームドアの両方が閉まった状態の間だけしか可動ステップは動作できません。そのため、列車・ホームドア・可動ステップの三者はトランスポンダによる通信で確実な連携制御を行うのが一般的でした。


2016年3月12日、東京メトロ銀座線上野駅1番線ホーム(渋谷方面)で銀座線初となるホームドアおよび可動ステップの稼動が開始されました。しかしこの当時の銀座線にはトランスポンダ装置を搭載していない旧型の01系が在籍していたため、この車両が引退する2017年末までは、地上側と車両側が直接連携しない方法で安全にホームドア・可動ステップを制御する必要がありました。

そこで導入されたのが、車側灯の点灯状態をカメラで検知するシステムです。この方法によって車両ドアの開閉状態をリアルタイムで認識し、確実に可動ステップを制御することが可能となりました。


かつて車側灯検知システムが運用されていた銀座線上野駅1番線ホーム。現在はトランスポンダ式連携へと変更され、当時の機器も撤去されています。

当記事ではこのシステムを開発した京三製作所の論文「可動式ホーム柵・可動ステップシステム用車側灯検知装置 ー車両ドアと連動しない可動ステップシステムの運用実現ー」を参考に、システムの概要やホームドア・可動ステップ動作の流れを紹介しています。なお、現在は01系の引退により上野駅1番線もトランスポンダ式連携に変更されたため、既にこのシステムでの運用は終了していますのでご注意ください。


車側灯検知システムの概要

上図は車側灯検知システムの大まかな構成を表しています。(論文に記載の構成概略図を元に作成)

車側灯は各号車の側面に設けられた車両ドアの状態を示す表示灯で、その号車のドアが一箇所でも開いていれば車側灯は点灯します。車側灯検知システムは各号車の車側灯に向けられたカメラがその点灯状態を検知し、点灯していない状態、つまり全てのドアが閉まった状態の間だけ可動ステップの動作を許可するための重要な役目を担います。

列車入線時、システムは主に以下の3段階でホームドア・可動ステップの総合制御盤に対して信号を出力します。


①定位置停止信号を出力

ホームに入線した列車が定位置許容範囲内に停止すると、車両前面を測定するセンサがそれを検知して「定位置停止」信号を出力します。

②車側灯の状態を出力

「定位置停止」信号を受けた車側灯検知システムの1系・2系制御装置は、各号車のカメラが撮影した車側灯の状態を判定し、それぞれの制御装置に繋がるカメラ3台全てが車側灯を「消灯」と判定すれば「消灯」信号が、3台中2台以上が「点灯」と判定すれば「点灯」信号がホームドア・可動ステップの総合制御盤に出力されます。

③車側灯が消灯状態であれば操作を許可

上記の判定結果が「消灯」だった場合、すなわち列車が定位置停止状態かつ全てのドアが閉まった状態であれば「操作許可」信号が出力されます。


列車到着時の操作者取り扱い

このシステムは "可動ステップの動作を許可する" ことが目的のため、最終的な操作は人の手によって行われます。当時の上野駅1番線では、ホームドアおよび車両ドアの操作を専任する駅係員が常駐していたようで、この駅係員が以下の手順で両者の操作を行っていました。

  1. 列車の定位置停止で「操作許可」信号が出力
  2. 後部車掌用操作盤でホームドア開扉操作
  3. 可動ステップ展開とホームドア開扉を表示灯で確認
  4. 後部乗務員室に乗り込み車両ドア開扉操作

もしもこの時、可動ステップが動作する前に車両ドアを開けてしまった際には、車側灯の点灯を検知したシステムから「緊急開」信号が出力され、可動ステップは展開せずにホームドアだけを自動開扉する機能も備わっています。システムで安全性は確保されていたとはいえ、結局は既定通りの手順・タイミングで操作を行わないと可動ステップが動作しないため、列車の車掌ではなく操作を熟知した専任の駅係員が担当していたのだと思われます。

また、ホームドア開扉操作を行った段階で、列車に対してもATC(自動列車制御装置)から「01」信号(常用最大ブレーキ動作)が出力されるため、可動ステップが展開したまま発車することを防止します。


後部車掌用操作盤。当時は専任の駅員がここでホームドア・可動ステップを操作していました。

列車出発時の操作者取り扱い

閉扉時も同様に一連の操作を駅係員が担当していました。車側灯が1箇所でも「点灯」判定であれば「操作許可」信号が出ないため、車両ドア全閉前に可動ステップが動作してしまうことは防がれています。

  1. 車両ドア閉扉操作
  2. 車両ドア全閉で車側灯が消灯
  3. 「操作許可」信号が出力
  4. ホームドア閉扉操作
  5. ホームドア全閉→可動ステップ格納を表示灯で確認

最終的な運転士への出発ブザー合図は通常通り車掌が行っていた模様です。


車側灯点灯判定のしくみ

システムの核となる車側灯点灯判定機能は、それぞれのカメラに接続されたCPUボードが画像を解析することによって行われます。

車両の側面には車側灯の他にも、車両の異常等を示す表示灯や行先表示器といった別の機器も存在します。さらに照明や太陽光が車体に反射した外乱光の影響を受ける可能性もあります。それらの中から車側灯の点灯状態だけを認識するため、画像に様々な処理を施すことで判定精度の向上が図られています。

車側灯点灯判定のしくみを要約すると、以下のようになります。

  1. 撮影画像の中で車側灯が写ると想定される範囲のみを抽出。
  2. 撮影画像を色相・輝度・彩度の3つの成分からなるHSL画像に変換。
  3. 外乱光の影響を減らすため、彩度の有無を強調化した画像を生成。
  4. 彩度強調化画像から車側灯と思しき部分を抽出し、予め定められた色相条件と比較。
  5. 色相条件が成立していれば「点灯」信号を、成立しなければ「消灯」信号を出力。

より具体的な画像解析の技術については、特許情報「判定装置、車側灯点灯検知装置および車側灯点灯検知システム」(リンクは出典・参考文献の項に記載)で詳しく知ることができますのでご参照下さい。 



冒頭で述べた通り、現在は01系の引退により上野駅1番線もトランスポンダ式連携に変更されたため、既にこのシステムでの運用は終了しています。システムが切り替わった時期は定かではありませんが、01系が営業運転を終了し、浅草駅でホームドアの稼働が開始されたた2017年春から夏ごろだったと推測されます。

しかしそれとほぼ同時期の2017年9月、大阪の北大阪急行電鉄で整備が開始されたホームドアの制御に車側灯検知システムが採用されました。北大阪急行線の各駅に可動ステップは設けられいないため、なぜこのシステムを採用することになったかは不明ですが、こちらは2021年3月現在でも運用されています。



出典・参考文献


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