【都営・京急】QRコードを用いたホームドア制御システム

取材日 2019年3月23日・12月1日

※去年3月に投稿した記事を再取材の上で大幅に加筆・修正した改訂版です。


ホームドア設置を阻む開閉制御の課題

鉄道駅において、旅客が線路に転落したり列車と接触する事故を防ぐ安全対策として大きな効果があるホームドア。特に近年は、利用客が線路に転落する事故が発生するとメディア等で大きく報道されることが多く、それによって設置促進を願う声もさらに強まっています。

しかし、鉄道会社にとってホームドアを設置するにはいくつもの高い障壁が存在します。それはホームドアそのものの技術やコストだけではなく、それに関連する設備の改修、中でも車両側の対応というのも大きな問題になってきます。

一般的にホームドアと車両ドアを連動して開閉するには地上側・車両側の双方に通信装置を設置する必要があるため、当然それには莫大なコストが掛かるほか、その路線を走る車両の編成総数が多ければ多いほど改造に時間も要します。そのため、こうした車両側の改造を行わずに、車掌が車両ドア・ホームドアそれぞれの開閉操作を行っている事業者も存在しますが、車掌の業務量が増えることで1駅あたりの停車時間も増加したり、誤操作によるトラブルや事故に繋がるリスクもあります。


このような問題に直面していた路線の一つが東京都交通局(都営地下鉄)浅草線です。4つの路線を有する都営地下鉄ですが、中でも浅草線は相互直通運転で4社(京急電鉄・京成電鉄・北総鉄道・芝山鉄道)の車両が乗り入れを行っており、もしもホームドア設置のため車両側の対応が必要になる際には、都が各社へその改造工事を要請し受け入れてもらう必要がありました。

浅草線に限らず車両側の対応が難しいという問題を抱えた路線は多く存在します。その解決策として、地上側に設置されたセンサ等で車両の動きやドア開閉を検知し、それに追従してホームドアを自動開閉するシステムが開発され、近年になって広く普及しています。車両側の改造を必要とせずに車両ドアとホームドアの開閉連動を行えるのが大きなメリットで、浅草線と直通する京成電鉄でもこのシステムが導入されました。

しかし、この方式で使用される測域センサ等を使った画像処理によるドア開閉検知は、処理装置が大掛かりになってしまうなどのデメリットも存在します。

特に浅草線は、編成両数や1両あたりのドア数が異なる車両が乗り入れてくることがあるため、それらを容易に判別してホームドアを制御しなければならないことが重要な課題でした。


開閉制御にQRコードを用いる

京急1000形の車両ドアに貼られたQRコード「tQR®」。もちろん携帯などでは読み込めません。

より簡単・低コストにドアの開閉を検知することはできないか、都交通局の開発チームが検討を続けた中で最終的にたどり着いたのが、日本発祥の二次元コード「QRコード」を用いるという方法です。

車両ドアのガラス部分に貼られたQRコードの動きをカメラで読み取ることで列車の動き(到着→ドア開閉→発車)を検知するという方法で、車両側の改修はQRコードを貼る作業だけで済みます。さらにこのQRコードに車種情報を格納することで、編成両数やドア数が異なる車種でも特別な操作無しで開閉連動が可能になります。簡単に車両ドア開閉を検知でき、同時に車種情報も読み取れるというまさに一石二鳥の方法です。

このシステムはQRコードの開発元であるデンソーウェーブと都交通局が共同で開発し、光の反射などに影響されにくい材質で50%欠損しても読み取れる新型QRコード「tQR®」が使用されています。2016年度に浅草線内で実車試験を行った結果、判定率は100%だったといいます。


そして2018年10月頃より、浅草線と直通する京急電鉄の羽田空港国際線ターミナル駅(現:羽田空港第3ターミナル駅)に設置されていたホームドア(それまでの開閉方式は車掌手動操作)で一足先にQRコード式連動システムの本格運用が開始。翌2019年度には開発元である浅草線の新橋駅ほか4駅でもQRコード式連動ホームドアの稼働が開始されました。

ホームドア導入に対して多くの課題を抱えていた浅草線と京急線は、QRコード式連動システムの実用化でそれらをクリアすることが可能となり、ようやくホームドア整備が進むようになったのです。


QRコード式連動システムの仕組み

天井からつり下げられたQRコード読み取りカメラユニットと左右の車両ドアに貼られたQRコード。

こうして都営浅草線と京急電鉄の標準となったQRコード式連動システム。このシステムを構成する上で重要になっているのが、QRコードが左右の車両ドアに貼られている点です。

列車の到着→ドア開閉→出発までの一連の流れで、左右2枚のQRコードの動きは以下の通りになります。

  1. 列車がホームに進入=左右のQRコードは同じ方向に移動
  2. 列車が定位置に停止=QRコードの動きが停止
  3. 車両ドアが開閉=左右のQRコードは別々の方向に移動
  4. 列車が出発=左右のQRコードは同じ方向に移動

このように左右2枚のQRコードは、列車自体が移動している状態では同じ方向に移動し、ドアが開閉している際には別々の方向に移動するため、これをホームの車両ドア上部に設置されたカメラで読み取ることで、列車の動きと車両ドアの開閉状態を確実に検知することが可能となっています。

そして列車が進入してきた段階でQRコードの車種情報を元に編成両数・ドア数を号車情報と横方向の動きを元に定位置停止をそれぞれ認識することで、車種に対応した箇所のみのホームドアを制御することができます。


都営と京急で異なる開閉動作

ホームドア開閉動作には都営浅草線と京急で異なる点があり、浅草線の仕様は列車の車種情報と定位置停止が認識できた段階でホームドアを開扉させるのに対し、京急の仕様はQRコードの動きで車両ドアが開き始めたことを検知してからホームドアを開扉させています。すなわち浅草線と京急のホームドアが開くタイミングには、

  • 浅草線:ホームドアが車両ドアより先に開く
  • 京急:ホームドアが車両ドアより遅れて開く

という大きな違いがあります。

ホームドアは旅客のスムーズな乗降のために車両のドアより先に開くのが通例で、QRコード式以外の車両と連携しないホームドア制御システムでも列車の定位置停止と編成両数などを検知すればすぐに自動開扉する仕様となっているのが一般的です。

なぜ京急では車両ドア開扉を検知してからホームドアを開けるような仕様としているのか、これについては別記事で考察しています。


各種機器の概要

(1)QR読み取りカメラユニット

浅草線大門駅(上)と京急蒲田駅(下)のQRコード読み取りカメラ。地上駅ではレンズフードのような部品が取付けられています。

QRコード読み取りカメラは冗長性確保のため複数箇所の車両ドア上部に設置されています。カメラは1m程の間隔を開けて3基が取り付けられており、これは列車が停止位置許容範囲内のどの場所に停止しても左右のQRコードを読み取れるようにするためだと思われます。


(2)定位置停止検知センサ

前述のように、QRコードのみでも列車の到着→ドア開閉→出発という一連の動作を全て検知することは出来るそうですが、より確実に車両の動きを検知するために定位置停止検知センサも併用されています。

浅草線で採用される3D距離画像センサが(上)と京急で採用される測域センサ(下)。

そのセンサの方式は浅草線と京急で異なっており、浅草線では日本信号の3D距離画像センサが、京急では北陽電機の2D測域センサ(LiDAR)がそれぞれ採用されています。


車両の連結部を測定して列車の動きを検知する点は両者とも同じで、QRコード式以外の制御システムでも近年多く見られる方法です。


C-ATSとの連動

ホームドアが開扉している間、浅草線内では "A0" 信号が、京急線内では数秒間 "7.5" の後に "NC" 信号が運転台のATS表示器に表示され、ホームドア開扉中は力行をカットして発車できないように制御されています。本来 "A0" と "NC" は停止信号手前で停止した際に出される信号で、名称こそ異なりますが動作は基本的に同じです。


QRコードの貼り付け位置

QRコードが貼り付けられているのは浅草線と京急線で運用される営業用車両全て、具体的には都営浅草線・京急電鉄・北総鉄道の全編成と京成電鉄の8両編成一般車です。QRコードは全てのドアにある訳では無く、編成両数ごとに異なる号車の3番ドア(成田空港方)のみに貼り付けられています。

QRコードは複数のドアに貼り付け、そして読み取りカメラも複数箇所に設置することで冗長性が確保されています。また、京急車は様々な編成両数で運行される関係で他社車よりQRコード貼り付け号車が多くなっています(詳しくは次項を参照)。


各種機器の配置とQRコード貼り付け位置の関係

例として、浅草線新橋駅、羽田空港第1・第2ターミナル駅、京急蒲田駅3・6番線のQRコード読み取りカメラ・定位置停止検知センサ配置図を以下に示します。

1ホームあたりのQRコード読み取りカメラ設置数は、浅草線内では3カ所、京急の有効長8両編成ホームでは4カ所、有効長12両編成ホームでは6カ所となっています。

京急線内では4両から12両まで幅広い編成両数が運行されており、駅・ホームによって両数ごとの停止位置は異なるため、読み取りカメラの設置台数は極力少なくする代わりに多くの号車にQRコードを貼り付けることで、1編成あたり2カ所以上で判定できるようにされています。


セキリュティや信頼性の問題は?

このQRコード式連動システムはメディアにも取り上げられ話題になりましたが、その際によく聞かれた意見が「QRコードが剥がれたりイタズラされたりしたらどうなるの?」という疑問です。

これについては前述のように、「tQR®」は最大50%欠損しても読み取れることや、1編成につき複数のドアで判定しているため、もしQRコードに剥がれや汚れがあり正常に読み取れなかったとしても、それが編成中何カ所も同時に起こってさえいなければ動作に影響は無いと言えるでしょう。


京急上大岡駅のホームドア稼働開始にあわせて設置されたQRコードを明々と照らすライト。

とはいえ、何らかの理由でホームドアが正常に開閉しなかったというトラブルは時々発生していたり、駅ビルの中にホームがある京急上大岡駅では照度不足が問題だったのか車両のQRコードを照らすためのライトが設置されたりと、様々な環境下での安定動作には少々課題が残っているようではあります。


今後の展開

都交通局が浅草線ならではの環境に対応するためにデンソーウェーブと共同で開発したQRコード式連動システム。しかし同じような問題を抱えてホームドア導入が難しい路線は浅草線に限らず他にも数多く存在しているのが現状です。そのため、他の鉄道事業者におけるホームドア整備の一助になればと、この技術の特許はオープン化されデンソーウェーブによってシステム全体をパッケージとして販売されています。

これにより京急は開発元に先駆けてシステムを導入し本格運用を開始。さらに2019年度中には遠く離れた神戸市交通局西神・山手線のホームドアでも導入される予定となっています。

日本のメーカーで開発されて今や世界中に普及した「QRコード」は、鉄道が大きく発展した代償に様々な制約が生まれ、近隣国より整備が遅れているとも言われる日本のホームドア普及促進に大きな効果をもたらす可能性を秘めているのです。



参考資料

新型ホームドア導入検討の手引き - 国土交通省

都営浅草線におけるホームドアの検証について | 東京都交通局

東京都交通局経営計画2019 | 東京都交通局(冊子版p29に特集記事)

世界初!デンソーウェーブ、東京都交通局と共同でQRコードを用いたホームドアの開閉制御技術を開発 ~編成車両数やドア数の違いにも対応可能。安価で構築できるシステムを実現~|デンソーウェーブ

鉄道用車両扉状態検出システム 新型QRコード®を利用したホームドア開閉システム|デンソーウェーブ

岡本 誠司、久保 実、小林 稔、岡本 知也「ホームドア開閉制御技術の考案 ーQRコードを用いた車両ドアとの開閉連動ー」『Cybernetics : quarterly report』Vol.22-No.4、日本鉄道技術協会、2017年、p10-15

小川 進『QRコードの奇跡 モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ』東洋経済新報社、2019年


0コメント

  • 1000 / 1000